自作機の法的運航への努力   元 日本自作航空機協会 会長 宮原 旭

        < 雑誌「ヒコーキ野郎」 ?号 より転載 >

-------------------------------------------------------------------------------------

 つぎに2年前に,日本自作航空機協会が作成した,アマチュアビルト航空機の飛行許可申請,ならびに運航に関する方針という試案がありますのでここに紹介します.しかし,これはまだ検討中のものなので,参考程度の気持でお読みください.

アマチュアビルト航空機の飛行許可申請ならびに運航に関する方針 (案)

1. 目的

 本文書は,グライダー,モーターグライダー,自由気球,ヘリコプターおよびジャィロプレン等を含むアマチュアビルト航空機の,航空法ならびに関係規則に基づく飛行許可の申請ならびに運航について必要な情報を提供し,当協会としての実施方針を定めることを目的とする.

2. 適用

 本文書において,アマチュアビルト航空機とは,アマチュアが個人的な自己教育またはリクリエーションのみを目的として,アマチュア自身によって製作し,組立てた航空機をいうものとし,本文書適用の対象とす.
 部品,材料およびコンポーネントのすべてを申請者自身が製作する必要はない.
 例えば,エンジン,プロペラ,回転翼およびハブ,車輪およびブレーキアッセンブリーおよびファスナーの如き標準航空部品ならびにパイプ類,羽布および押し出し物などは一般市販のものを購入使用して差支えない.また,製作用素材キットおよび他の航空機の構造部材を用いてもよいが,この場合も,製作者自身が個人的な自己教育またはリクリエーションのみを目的として,その航空機を自ら製作し,組立てたものでなければならない.

3. 設計および製作

 アマチュアビルト航空機の製作者は,アマチュアビルト航空機の運航の安全のため,設計および製作にあたっては,下記の各項に従うものとする.
 a. 些細な事故にも,パイロットまたは同乗者を傷つけるような鋭角の部分,端部,突起,ノッブ等がなる
   べく出ないように設計し,また,これらのものにはあて物を施さねばならない.
 b. アマチュアビルト航空機には如何なる種類のエンジン,プロペラ,車輪その他の部品ならびに材料を
   用いてもよいが,可能な限り航空局により認可されたコンポーネントまたは航空用として認可されて
   いる材料を用いることが望ましい.特に翼桁,胴体構造部材および重要な部品の接続具等は然りで
   ある.もし,上記により難い場合は,計算または試験その他の方法により上記と同等以上の安全性を
   有することが証明できるものを使用するものとする.
 c. アマチュアビルト航空機においては最低限下記の計器または装置を設備しなけれぱならない.
   (1)対気速度計
   (2)高度50米以上を飛行するものにあっては高度計
   (3)動力装置を有するものにあっては,回転計,滑油警報装置等,動力装置の運転状態を指示する
     計器または装置
   (4)燃料量を表示する計器または装置
 d. 動力装置を有するものにあっては,最初の飛行に先立ち,動力装置のアイドリングからフルパワー
   まで種々のスピードをもって最低1時間以上の地上運転を行なって,各部が正常に動作している
   ことを確認しなければならない.
   燃料は常にエンジン製造者の指定するものを用いなければならない.また,予想されるすべての
   運転状態および飛行姿勢において,燃料が正しく供給されることを確認しなければならない.
 e. 火災を発生するおそれのある個所には適当な防火装置を施さねばならない.
 f. 座席には安全ベルトを装備していなければならない.

4. 試験飛行許可の申請

 a 下記の法律および関係規則が,アマチュアビルト航空機の飛行許可申請に関して適用される.
  (1) 航空法第11条但し書きならびに関係規則
  (2) 航空法第28条第3項ならびに関係規則

 b. 飛行許可の申請にあっては下記の書類を所轄の地方航空局長宛握出しなければならない.
  (1) 試験飛行許可申請書
     航空法第11条但し書きに基づく飛行許可申請書.(航空法施行規則第16条の18)
     本申請書には下記の参考書類を添付するものとする.
   イ. 試験飛行計画書
   ロ. 試験場所見取図
   ハ. 航空機の仕様書 主要諸元,推定性能,三面図.主要使用材料表その他必要な事項を含む.
   ニ. 操縦者の操縦に関する経歴,資格
  (2) 航空法第28条3項に基づく操縦許可申請書.(航空法施行規則第51条の2)

5. 検査について

 a. 前条の申請書を提出すれば,航空機が安全に飛行できる状態にあるか否か等について,航空局
   検査官の検査が行なわれるものとする.
 b. 当協会は,前項の検査についての関係者の負担をできるだけ少なくするため,下記のとおり実施
   するものとする.
  (1) アマチュアビルト航空機の製作者は製作に着手する前に,計画意図,設計および製作の計画
    (主要諸元,性能概要,三面図,使用材料一覧表を含む)ならびに大略の工程等を当協会に通知
    しておくものとする.当協会はこれに番号を附して整理し,航空機の製作工程に従って,翼,胴体
    その他重要部分が羽布等によって覆われる以前に,安全性について点検し,必要な記録を作成
    しておくものとする.
  (2) 材料,部品,装置等の仕様または出所についての問題または疑問が生じないよう,製作者は
    これら材料,部品,装置等の購入伝票,送付書等をできる限り保存しておくものとする.
 c. アマチュアビルト航空機の飛行許可を申請する者は,試験飛行に先立って実施した動力装置の
   地上試験運転ならびに地上走行試験等の記録を飛行許可中請書に添付するものとする.

6. 運航についての制限

 アマチュアビルト航空機の試験飛行に関しては,航空法ならびに関係規則が適用されるほか,特に飛行区域ならびに飛行条件等について,その航空機に必要とされる制限がつけられるのが一般である.

7. アマチュアビルト航空機の安全対策

 a. アマチュアビルト航空機の運航者は,最初の飛行を行なう際には,離陸および着陸時の事故に
   備えて,直ちに利用できる救急設備ならびに要員を待機させるものとする.アマチュアビルト
   航空機が水上機の場合は救急設備および救急要員を乗せたボートを離水および着水区域
   の近くに配置するものとする.
 b. アマチュアビルト航空機の運航者は最初の飛行を行なうに先立ち,地上走行試験を行なって,
   その航空機の地上運航特性に十分に慣熟しておくものとする.
 c. アマチュアビルト航空機は,別途許可を得た場合を除き,アクロバットまたは激しい操縦を行
   なってはならない.
 d. 購入した設計図または材料キットにより製作した航空機の運航については販売者の添付した
   フライト・マニュアルに従わねばならない.
 e. アマチュアビルトのヘリコプターまたはジャイロプレンの場合は,特に下記の各項に注意する
   ものとする.
  (1) パイロットは回転翼機の飛行特性に十分慣熱していなければならない.
  (2) パイロットはコレクティブピッチおよびサイクリックピッチコントロールの動態を十分に理解
     していなければならない.
  (3) 三枚翼またはフルアーティキュレィテッドローターを有する回転翼機の運航者は,特に地上
    レゾナソスに注意しなければならない.この状態のローターアンバランスが進行すると極めて
    危険であって,構造破壊に至ることが多い.
  (4) ホバリングまたは水平飛行を始める前に機を繋留して安定度,振動,バランス等の試験を
    十分に行なっておかなければならない.
 f. アマチュアビルト航空機により飛行する場合は,安全ベルトおよびヘルメットを着用しなければ
   ならない.
   また,水上において飛行する場合は救命胴衣を着用しなければならない.
 g. アマチュアビルト航空機により飛行を行なう場合は第3者に対する損害を補償するための
   保険(対人,対物)をかけておかなければならない.

  (終)